
Okumura Minami
奥村 美海
アーティスト
2018年 アステール卒業
2022年 東京藝術大学油画専攻 卒業
2026年 東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 在籍
1999年静岡県生まれ。
東京藝術大学美術研究科修士課程油画専攻修了。
現在、同大学院博士後期課程在籍。絵画やインスタレーションを中心に発表を行う。ふとした落書きや帳簿に書かれたメモなど、個人の日常生活に強く結びつき痕跡として現れる筆跡を「マイクロレター」と名付けて収集し、作品内へトレースすることで、絵画の空間構造自体をとらえ直すような作品制作を行っている。
主な展覧会にTOKAS Emerging 2025「もも、Qうしゅう、32850日」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2025)など。第3回BUG Art Award セミファイナリスト、令和6年度「上野芸友賞」、平成 31 年度「久米桂一郎奨学金」受賞。

1. アステールとの出会いと受験の決意
── アステールに通い始めたきっかけを教えてください。
奥村: 高校1年か2年の頃に見学へ行ったのが一番最初のきっかけです。中学生の頃からなんとなく「美術の道に進みたい」「絵本や漫画などの絵を描く仕事がしたい」という漠然とした思いがありました。そんなとき、親戚がアステールに興味を持っている話を聞いて、父親と一緒に行ったのが始まりです。
一番強く印象に残っているのは、最初に面談をしてくださった健司先生です。高校生ではとても手に入らないような美大受験の実情や時代の関連情 報を、すごく熱心に教えてくれました。「自分が今持っている情報」と「実際の美大受験」のギャップを目の当たりにして、「これは通うしかない!」と決意しました。
── 最初から油画専攻を目指していたのですか?
奥村: 実はいつ油画に決めたかはハッキリ覚えていないんです(笑)。ただ、私は普通の高校に通っていて油絵も描いたことがなかったので、アステールの環境の中で「一番自由にいろいろな表現ができるのが絵画(油画)なのかな」と直感的に感じて選んだのだと思います。


2. アステールでの学びと合格の秘訣
── アステールの授業で特に印象に残っていることは何ですか?
奥村:一番刺激を受けたのは講師の方々による「デモンストレーション(デモスト)」です。目の前で講師の先生が実際に手を動かし、大きな紙やキャンバスに描いて見せてくれる授業形式です。道具の使い方や鉛筆の削り方、持ち替え方など、実践的な技術を間近で吸収できました。間近で見ていると真似できそうな作業に見えるのに、少し離れて画面全体を見ると圧倒的な差がある。その説得力と刺激はアドバイスの言葉以上のものでした。
また、共通課題として取り組んだ構成デッサンやアクリルを使ったアイデア論などの授業も印象深いです。デザイン科などの他専攻と合同で取り組む中で、自分の作品の位置づけや画面構成のバランス感覚を掴むことができました。
それと、授業以外でもみんなで近くの川へ散歩に行ったり、夏にバーベキューをしたりといった行事や憩いの時間があり、学びと遊びのバランスが絶妙な環境でした。

──東京藝大合格を果たした最大の理由は何だと思いますか?
奥村:最終的に開き直って、絵を描くことを心から楽しめたことだと思います。最初は言葉だけの課題や構成課題に苦手意識がありました。ですが、変に「 課題にどう答えるか」にとらわれすぎず、「自分の作りたい絵画空間を徹底的に作り込むぞ」というマインドに切り替わったんです。
自分の好きな表現(絵の具の厚みやマチエール、観察に基づく立体感と視覚的効果の融合)を画面に落とし込み、客観性を保ちつつも没頭して楽しむことができたのが良い結果につながったのだと感じています。
3. 大学生活での成長と現在の制作活動
── 大学入学後の生活やギャップ、楽しさについて教えてください。
奥村:大学には多様な背景を持った学生が集まっていて、お互いの作品や考え方に触れるだけでも刺激的です。また、教授陣だけでなく若手の非常勤講師の方々から、ポートフォリオの作成、プレゼンテーション手法、助成金の申請方法など、卒業後にアーティストとして「サバイブしていくための実践的な知見」を学べたことも大きな収益でした。
── 現在の作品制作や今後の展望について教えてください。
奥村:現在は平面の絵画にとどまらず、空間的に展開するインスタレーション作品などを制作しています。自分や他者の文字・筆跡・ささやかなメモ書きといった「線」の要素を収集し、アクリル板をレーザーカッターで切り抜いた立体やドローイング、色彩の層と組み合わせて絵画空間を再構築する実験を行っています。
今後は明治時代の子供が描いた線や歴史的なドローイングなど、個人と歴史の文脈が交差する「線」のリサーチを深めつつ、絵画の新しいあり方や空間性を探求し続けて いきたいと考えています。

4. スランプの乗り越え方と受験生へのメッセージ
── 受験生活中のスランプやメンタル面はどう克服していましたか?
奥村: 現役時代は自分を追い詰めすぎて作品に悪影響が出てしまっていたので、浪人時代は「毎日楽しく過ごそう」というのを念頭に置いていました。
うまく描けなくて悔しい思いをしても、1枚のキャンバスを描き終えて新しいキャンバスを張るときには気持ちを切り替えるようにしていました。絵というものは自分から離れて独立していくものだからこそ、引きずらずに「次は違う表現を試そう」とリセットすることが大切でした。
また、疲れた時はアステールの庭のベンチに寝っ転がったり、当時いた看板猫の「トラちゃん」に癒やされたりして一呼吸置いていました。
── これから受験に挑む後輩たちへメッセージをお願いします。
奥村:アステールは周囲にきれいな川や緑があり、制作に没頭できる本当に素晴らしい環境です。そこに通って毎日コツコツと課題に取り組むという習慣自体が、将来アーティストとして独立して制作を続けていくための「基礎体力」になります。
辛い時は無理をせず適度に自然でリフレッシュしながら、日々の課題を一枚一枚丁寧にこなしていってください。それが必ず自分の大きな力になります。