
Sugimoto Yohei
杉本 陽平
映像ディレクター / 企画者
1999年 アステール卒業
2003年 多摩美術大学グラフィックデザイン学科 卒業
美大受験予備校「アステール」から多摩美術大学グラフィックデザイン学科へ進み、
CM制作プロダクションや大手広告代理店(電通)での勤務を経て、
現在は映像ディレクター・クリエイティブディレクターとして独立・活躍する杉本さん。
受験生時代の葛藤から、広告業界の最前線で学んだ「クリエイティブの本質」、
そして表現者としての現在の境地についてじっくりとお話を伺いました。

1. アステールに入ったきっかけと予備校生活
── 美大受験をしようと思った時、アステールに来たきっかけは何だったのでしょうか?
杉本: 正直に言うと、最初は自主的ではなかったんです(笑)。高校2年生の時に勉強で完全に落ちこぼれてしまって、「もうやることがないなら予備校でも行ってみたらどうだ」と親に言われて。いわば消去法で放り込まれたような感じでした。でも、見に行ってみたら嫌いではなかったし、結果として今こうして絵やデザインで生活できているので、親には本当に感謝しています。
── 入学してからの受験勉強はどうでしたか?現役の時は・・・?
杉本: 現役の時は全然ダメでしたね。一応受験はしたものの、自分の実力が足りないことは分かっていたので、「浪人してしっかり力をつけたいな」と思っていました。見事に落ちて浪人(一浪)が決まりました。
── 一浪時代のプレッシャーや学びはどうでしたか?
杉本: 一浪の時はすごく伸びましたね。ただ、アステールの中で良い位置に行けたとしても、「この狭い世界の中で満足して勝負していたら終わるな」と思ったんです。他の予備校の合格者作品やサムネイルを見て、「世の中には上手い奴がめちゃくちゃいる」と危機感を持って研究していました。 当時は情報が少なかったので、予備校にある本や教授陣の作品集をしっかりチェックして、自分の勝ち筋を分析していましたね。

── アステールの授業で、特に印象に残っていることはありますか?
杉本:やっぱり「美術史」の課題ですね。ただ「見たものを描け」という受験の課題とは違って、テーマに対して「自分で何を作るか考えてアウトプットする」という、まさにプロの仕事に近いオーダーが出されるんです。受験の束縛から解放されて、自分のやりたい実験ができる場所でした。
悶々と悩みながら制作して、周囲のレベルの高い作品と比較されるプレッシャーもありました。でも今思うと、「世の中に自分のアウトプットを責任を持って表明する」という経験は、社会に出てクライアントと仕事をする今のプロセスと全く同じです。いち早くそれを体験できたのは大きかったですね。
2. 予備校で学んだ「仕事」のプロトタイプと、大学での転機
── 多摩美術大学に進学されてから、グラフィックから「映像」へと関心が移っていったそうですね。
杉本:大学1年生の時、CM全盛期だったんです。KDDIやカップヌードルなど、多摩美や武蔵美の先輩たちが面白くて華やかなCMをガンガン作っていて。静止画よりも「動くことでストーリーや奥行きが生まれる」という映像の世界にすごく魅力を感じて、大学時代はアニメーションや映像制作にどんどんのめり込んでいきました。
3. 制作プロダクションから電通へ。「表現」から「広告の本質」へ
── 大学卒業後はどのようなキャリアを進まれたのですか?
杉本:就職氷河期だったので最初はかなり厳しかったのですが、縁があってCM制作プロダクションに就職しました。プロダクションマネージャー(PM)として現場の段取りや泥臭い仕事を2〜3年経験し、そこからフリーランスとして演出の仕事を少しずつもらうようになりました。
その後、人手が不足していた電通関西から声がかかり、東京本社へ移籍して5年間の契約社員として勤務することになりました。
── 大手代理店での5年間は、杉本さんにとってどんな期間でしたか?
杉本: 正直、ものすごくきつかったです(笑)。周りは優秀な人ばかりで、マーケティングやビジネスの構造から深く議論する現場でした。それまでの自分はクリエイティブの「出口(アウトプット)」ばかりを見ていたのですが、実はアウトプットなんて10あるうちの「1」でしかないと思い知らされたんです。
残り「9」の、世の中の仕組みや「なぜ人がお金を払うのか」「課題をどう解決するか」という大きな構造を徹底的に学びました。表現だけの世界から、「広告の本質」や「人の心を動かす仕組み」へと視点が大きく広がった5年間でしたね。
4. 独立、そして現在の仕事スタイルの確立
── 現在はどのようなお仕事をされているのですか?
杉本: 映像ディレクション、企画、絵コンテ作成、クリエイティブディレクションなど、局面に応じて柔軟に役割を変えながら仕事をしています。
例えば、有名コピーライター/クリエイティブディレクターの方と組んで、マクドナルドやどん兵衛といったナショナルクライアントのCM企画・演出コンテを一緒に作ったり、NHK『えいごであそぼ』の月歌の映像を一人でアニメーション制作したりと、幅広く手掛けています。
── 最後に、これから美大やクリエイティブ業界を目指す受験生へメッセージをお願いします。
杉本: 一言で言うなら、「くだらないプライドは持つな」ということです。
若い頃は誰しもプライドがあって、自分の下手さや未熟さを認めたくない時期があると思います。でも、自分のダサさや恥ずかしい部分も含めて、裸になって「今の自分」を客観的に受け入れることがすべてのスタートです。
クリエイティブの仕事は、自己満足(自慰行為)ではなく「相手(消費者やクライアント)に喜んでもらうこと」が醍醐味です。自分のプライドを捨てて、世の中や他人に真剣に向き合えるようになった時、表現者として一皮剥けるのだと思います。頑張ってくださ い!